恋した道化師ノ行方

独り言と落書きを気の向くままに更新。近頃絶賛更新停滞中。

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- --:-- | スポンサー広告 | トラックバック(-) | コメント(-) |


食堂は、時間帯のせいか混み合っていた。


初めての場所というのは、緊張するもの。
私はまさに、かっちかちに緊張していた。
どこを向いても笑い声が聞こえるこの場に、知りあい一人いない私の存在はふさわしくないのではないかと。
トレーを取りながら思う。

なんか、見たことない食べ物ばかりだ……。

どれを食べる気にもなれない、かも。
トレーを持ちながら、列に沿って横へずれていく。
どれもカラフルで、毒々しい色をしている。
宇宙っていうのは広いんだなあ。
そう実感していると、目の前に少し大きめのパンらしきものが見えて。
すかさずそれを3つ取ると、列から外れて座る席を探し始めた。




こういうときに、自分と同じような独り者を探してしまうのは仕方のないことだと思う。
会話の中に入っていく勇気もなければ、その雰囲気を壊す気もない。
そう、ベストなのは誰もいない机なのだが、この時間にそんな場所があるとも思えなかった。
決めた。
次からは遅れた時間に来よう。

しばらくきょろきょろしながら奥まで進んでいくと、いた。
一人で食事を取っている男性。
お兄さん、ではないだろう、でも決しておじさんではない、と思う。(なにしろ宇宙は広いですから)
ぼっさぼっさの長い髪を垂らした後ろ姿では、何も予想できない。


ともかく、一人でいる人を見つけて私は喜んだ。
他の道はない、この人の隣に座ろう。



「あの、」




は。

私は驚いた。
その人の前に置いてある食物の量。量。量。
もしかしてこの人、一人じゃなかったのだろうか?
誰かと一緒に来てて、何らかの用で席を立ったその人の食事を見張っているのではないか?
そんなことを思い、「あの、」と話しかけたことを急速に後悔しはじめた。



「なんだ。俺に何か用か」

「いえ、いや、その。
おおおおおお一人ですか?」

「あぁ。見ての通りな」



一人。
じゃぁ私は間違っていなかったのだ。として。
この食物の量、まさか一人で食べるつもりなのだろうか。
いくら宇宙は広いとはいえ、常識ってのがあるのでは。



「で。俺が一人ならなんだってんだ」

「べ、別に悪い事しようってわけじゃなくて。
あの、私っ、今日初めてここにやってきたもので、友達も何もいなくて寂しいので、その、

……一緒に、お食事できたらいいなぁ、と思って!」




考え考えそう言い切った。
最後の方は力んでしまって、つい声が大きくなってしまったのがわかった。
ほんの少し周囲の時が止まったように静かになった気がするが、食堂は全体的には賑やかなままだ。
すぐに周囲の時も動きだした。



「……俺はかまわんが」

「ほ、本当ですか! ありがとうございます!」



その言葉を聞いてほっとした。
よかった。
椅子をガタガタいわせながら、隣に座らせていただく。
妙な安心感がわくのは、人の性ということで。

いただきます、と一言呟いてさっそく、パン(だといいなぁ)を手に取り頬張った。
ん、大丈夫だ。
私の知ってる味。
ちょっと酸味があるのが気になるけど、これはパンだ。
もぐもぐと口を動かし、ごくんと飲みこむ。



「私、ユメっていいます。
今日からここでお仕事することになりました」

「ほぉ。新人ということか。技術者か?」

「いいえ、戦闘員です」

「戦闘員?」

「はい」



意外ですか? と問うと、あぁ、とあまりにも率直な答えが返ってきた。

まぁ、仕方ないといえば仕方ない。
背も小さいし自分でいうのもなんだけど、華奢だし。
胸もないし。いや少しはあるけど。ないし。ないし。

一人悶々していると、男は変な赤いしましまの果物を口に放りこみながら言った。



「戦闘力は、いくつなんだ?」

「せんとう、りょく?」

「あぁ。測らなかったか」

「いえ全く。戦闘、力? ってなんですか?」

「個体の強さを数値で表したものだ」



強さを、表わす。
というと、テストの点数とか、IQみたいなものだろうか。
なるほど。
そんなものが測れる便利なものも発明されてるんだな、宇宙って。



「どこにいけば測ってもらえるんですか?」

「スカウターがあればすぐにでも測れる。
あぁ、スカウターももらっていないか。戦闘力を知らないとなると」

「えぇ、もらってないです」

「戦闘員ならそのうちもらえるだろうな。侵略に行く際に必要になる」

「な、なんですかその。
戦闘員じゃないならもらえない的なニュアンスは」

「さぁな」

「ほ、本当ですよ! 私、戦闘員として採用してもらったんですから!」



男はニヤニヤ笑いながらぱくぱくと食事を進めている。
あれ、気付けば山盛りだった食物もほとんどなくなっている。
すごい、この人、ただ者じゃない。たぶん。

ヘンに競争心が生まれ、私も負けじとパンに食らいつく。
あ、やっぱダメだ。
ノドに突っかかって。



「げほっ、けほっ」

「ユメとかいったか?」

「はぃ、ぐっ……げっほ!」



涙目でうなづく。
男は笑いかかった口を右手で隠し、左手で私の背中をたたいた。
あ、けっこう優しい人なのかな。



「俺はもう行くからな。
この次は飲み物もちゃんと持ってきとけ」



ほら、と差し出された水の入ったコップ。
あぁ、やっぱり優しい人なんだ。
私はそのコップを手元に引き寄せ、ぐっと飲み込んだ。
はー、助かった。



「あ、りがとうございます」



私の声が聞こえたか聞こえないか、椅子を引く音がした。
私は重要なことを聞き忘れていることに気づき、ばっと振り向く。








「あの、名前っ」



男はもうそこにはいなかった。
私が声をかけたところには誰もいない空白。

周囲の視線が軽く突き刺さって、私は何でもないかのようにパンをかじった。




……あぁもう、なんか恥ずかしいな。
今度会ったら名前聞いてから足を踏んでやろう。





↓あとがき


長編、やっちまいました。

アニメラディが予想よりも渋かったんで、そっちのキャラを尊重してみました。
いやあ、そのうち王子とか菜っ葉とかでてきて、すぐヘタレになると思いますが。
ここんところは渋いキャラで。


ヒロインの名前は、短編と区別するために"ユメ"ちゃんにしましたが、
こちらの方も、ご要望次第で変えたいと思います。
これ実は、私が好きなアニメの主人公の名前なんです。
またその主人公はこのヒロインの全体的なモデルにもなってるんで、
知ってる方、ぜひ参考に。
スポンサーサイト












管理者にだけ表示

トラックバックURL↓
http://silverdream966.blog105.fc2.com/tb.php/12-177ceb00

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。